"二人は八十歳になった本田宗一郎が研究所にやってくると、そろって応接室に彼を訪ねた。そして桜井淑敏が新レギュレーションについてこまかに説明すると、本田宗一郎はいった。「そのレギュレーションは、うちのエン..."

“二人は八十歳になった本田宗一郎が研究所にやってくると、そろって応接室に彼を訪ねた。そして桜井淑敏が新レギュレーションについてこまかに説明すると、本田宗一郎はいった。

「そのレギュレーションは、うちのエンジンにだけ適用されるのか?」

「いや、顧問それはちがいますよ。全部のエンジンに対してです」

「なんだ、そうか。うちのエンジンに対してだけそうするんだったら頭のいいやつらだと思ったが、やつらバカだな。どんなにレギュレーションを変えたって、変えれば変えるほどうちが有利になるだけじゃないか。短期間でどこよりもいいエンジンをつくってしまうのがうちの特長だということを、やつらは知らないらしいな。それで、相談というのは何だ」

川本信彦と桜井淑敏はたがいに顔を見合わせた。二人ともいまや完全に迷いはなくなっていた。

「いや、もういいんです。相談なんかありません」と川本信彦がいった。

二人とも本田宗一郎の純粋としかいいようのない精神に触れて、心がすっかり洗われたような気分だった。このときホンダのF1続行が決定したのである。”



- 海老沢泰久「F1 地上の夢」 (via ockeghem)

via Tumblr http://ift.tt/1w4F9dN September 03, 2014 at 12:57PM

Tags